2030年にエンジニアは消え、2035年に雇用は消える
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2030年までにITエンジニアはいなくなり、2035年には雇用の8割が消えて社会が崩れる。僕は去年からそう考えている。きっかけは2025年の頭にCursorを集中的に使ったことだ。自分の手を動かさなくてもコードができていく体験を何週間も続けた結果、この見立てに行き着いた。
こないだ友達と河川敷でこの話をしたところ「それは陰謀論だよ。社会に浸透させるためのコストを払いなさい」と返された。僕はAIが社会を強制的に変えるのだから浸透させる必要はないと答えたが、わかってもらえなかった。
友達の言い方は、新しい考えは説いて回って賛同者を集めてようやく社会が変わるという前提に立っている。民主主義で制度を変えるときの手順としては正しい。
しかし今起きていることはそれとは違う。企業は人件費を削るためにAIを入れる。その判断は一社ずつ誰の賛同も要らずに行われ、それが合算されて社会の形が変わる。誰も賛成していないのに気づいたときには変わっている。
だから浸透させるコストは要らない。河川敷で説得できなかったのはこの一点を言葉にできていなかったからだと思っている。この記事はその言葉を探すために書いている。
今月は毎日どこかの会社が情報漏えいを公表している1。PHPの脆弱性ひとつで名の知れたサービスが一斉に止まった。タイムラインには「これは資本主義が終わるのではないか」という投稿が流れてきた。
僕はこれを見て嬉しかった。予言が当たりそうだからではなく、一人で見ていた景色を他の人も見始めたからだ。
漏えいで終わるのは情報だけではない。攻撃を受けてそのままサービスを終える会社が出てくる。復旧に回す金はなく対応できる人もいないので、謝罪文を最後に消えていく。生き残ったサービスも使う側が「これに個人情報を入れていいのか」と疑い始める。会員登録をためらい、決済を他のサービスに移し、取引先は接続を切る。実際に攻撃されたかどうかとは関係なく、疑われた時点で商売は細っていく。
インターネットの上に積み上げてきた商売はお互いを信じていることを前提にしている。その前提が今月崩れ始めた。
僕はエンジニアとして毎日AIにコードを書かせている。AIの能力が伸びていると感じるより先に、自分の役目が削れていくことがわかる。半年前に自分がやっていた作業を今はAIがやっている。半年後には今やっている作業をAIがやっているはずで、これは予測ではなくもう何度も繰り返してきた経験だ。
METRは、AIが一人でこなせる作業の長さが4か月ほどで倍になると計測している2が、これは間違いないだろう。
エンジニアが最初に消えるのは、自分で自分を置き換えているからだ。コードはAIに最も教えやすく、エンジニアは最も熱心にAIを使う。自分の仕事を一番速く手放す職業が自分の職業だった。2030年という年は計算から出したものではなく、この削れ方があと何回続くかを指で数えた結果だ。
エンジニアの次は画面の前に座っている人全員に同じことが起きる。読んで判断して書くという作業はコードを書くことと同じであり、日本で働いている人の半分以上がそれで食べている。会議やSlackのやりとり、稟議、メールの返信は全部AIがやれる。エンジニアがいなくなった後の数年で同じ曲線がそこに来る。
運ぶ仕事、作る仕事、売る仕事、接客する仕事は残るように見えるが残らない。働く人の半分が給料を失えば、その人たちが使っていた店や飲食店が成り立たなくなる。仕事を奪うのはロボットではなく、客がいなくなることだ。だから8割になる。これは僕の暗算であって根拠を飾る気はない。
崩れるのは働いて給料をもらい、それで買い、その税と保険料で国が回るという循環だ。この循環のどこかが切れれば全部が止まる。人を減らした会社は儲かるが、その儲けを払う客も減っていく。年金と保険は給料から引かれている。信じて使うという前提をなくしたサービスは客を失う前の段階で疑われて細る。今月見た疑心暗鬼が経済全体に広がった姿がこれだ。
今年の情報漏えいで見えたのは、人間の組織が決めて動くまでの速さがAIの速さに負けている姿だった。同じ負け方を国もすることになる。
結局のところ、いい人になるしかないのだろう。従来のITエンジニアに求められた「どう作るか」ではなく「なぜ作るか」の方にはみ出して、課題を抱えている人やステークホルダーと信頼関係を築くしかない。まつもとゆきひろも「人間が感じている不満をどう解消するか考えることは、人間にしかできない貴重な活動です」と言っている3。
出典
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ウェステリア「2026年の情報漏洩・不正アクセス・ランサムウェア事案一覧」 https://westeria.jp/security-incidents/2026/ ↩
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METR, Measuring AI Ability to Complete Long Tasks(Time Horizon) https://metr.org/ ↩
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エンジニアtype「AI時代、技術の壁は消え「心理の壁」が残る。まつもとゆきひろが40年コードを書き続けて見つけた“欲望”の価値」(2026年3月9日) https://type.jp/et/feature/30626/ ↩