Agentopia

目次
Agentopia
開発元王鑫涛ほか12人(復旦大学、ジョンズ・ホプキンス大学、中国科学技術大学ほか)
初版2026年6月5日(論文の公開)
リポジトリNeph0s/Agentopia
プログラミング言語Python
種別大規模言語モデルによるマルチエージェント社会シミュレーションの枠組み
ライセンスMIT License

Agentopiaは、大規模言語モデル(LLM)で動くエージェントの社会で、数年にわたる人の生活を模擬し、その経験でLLMを訓練するための枠組みである。王鑫涛(Xintao Wang、復旦大学)ら13人が、2026年6月5日に論文をarXivで公開し、コードをGitHubでMITライセンスのもとに公開した123。

論文の実験では、3つの架空の世界にそれぞれ100体のエージェントを置き、10年分の生活を模擬した。エージェントの幸福を表す「人生の報酬」(life reward)を年ごとに計算し、報酬の伸びた上位25%のエージェントの記録でQwen3.5-397B-A17Bを追加学習した1。論文は、追加学習したモデルがシミュレーション内の幸福の指標を高め、ロールプレイの評価CoSER Testの平均点を15.6%上げたと報告している1。

中国の報道は、miHoYoの創業者の蔡浩宇が設立したAnuttaconの研究として本研究を伝えた4。

背景

論文は、人は社会生活から学ぶという見方を出発点に、LLMのエージェントも模擬した社会生活の経験から学べるかを問いとして掲げている。その動機として、人間の作ったデータが尽きつつあり、今後のAIは主に経験から学ぶ必要があるという、デイヴィッド・シルバーとリチャード・サットンの主張を引いている1。

先行する生成エージェント(Generative Agents)は25体を2日分、Project SidはMinecraftの上で、Aivilizationは数週間分を模擬した。論文はこれらの研究が、物を拾う、移動するといった細かい操作にLLMの呼び出しの多くを費やし、模擬できる期間が数日の規模にとどまっていたと述べている1。Agentopiaは細かい操作を省き、計画・交流・意思決定だけをLLMに書かせることで、模擬する期間を年の単位に延ばした1。

設計・仕組み

時間の進み方

シミュレーションは週を単位に進み、1年は10週、1週は活動する日が5日である15。各週は次の4つの段階からなる1。

  • 計画: 記憶と現在の状態からその週の計画を立て、生活水準を「倹約」から「贅沢」までの4段階から選ぶ
  • 連絡: 5回の往復で他のエージェントと1対1でやり取りし、共同の活動への誘い・応諾・断り・取り消しを伝える
  • 活動: 各日に1つずつ、共同・単独・偶然の出会い・公開イベントのいずれかの活動をする
  • 振り返り: 1週間を振り返って日記を書き、長期の記憶を更新する

年の終わりには、人物設定を更新し、職に応募し、人生の報酬を計算する1。

エージェント

各エージェントは、背景・性格・才能などの人物設定と、活力・充足度・技能・職・資産の状態を持つ。充足度はマズローの欲求段階説に基づき、気分・物質・交友・自尊の4つからなり、毎週一定の割合で減る1。

長期の記憶はファイルとして持ち、エージェント自身が関数の呼び出しで読み、書き、一覧する。人間関係は専用のデータとして持たず、相手ごとのファイルに書いた自由な文章だけで表す。論文は、友人・恋人・他人・競争相手を1つの仕組みで表せる点をこの設計の利点に挙げている1。

環境モデル

世界の規則はコードに書かず、「環境モデル」と呼ぶ別のLLMが担う。環境モデルは活動の結果と状態の変化を決め、共同の活動で次に話す人を選ぶ。公開イベントや偶然の出会いを作るのも、職の応募の合否を決めるのも環境モデルである。年末に人物設定を更新し、ロールプレイの原則に反する応答を除く役も持つ1。

人生の報酬

人生の報酬は、社会的な評価・主観的な満足・経済の3つを、0.4・0.4・0.2の重みで合わせたものである1。

要素重み計算の方法
社会的な評価0.4各エージェントが知人を「好意」と「敬意」で0から100で採点し、その採点のグラフに重みつきのPageRankをかける。互いに好意を持つ関係には加点がある
主観的な満足0.44つの充足度の1年の平均から、全体の下位25%に落ちた回数だけ減点する
経済0.21年間の預金の増減

追加学習

1体の生涯でLLMの呼び出しは数百に上り、期間は数十年に及ぶ。論文はこのためPPOのような一貫した強化学習は使えないとし、棄却サンプリングによる教師あり学習を採った1。各エージェントについて、その年以降の報酬の割引和が前の年より伸びた幅を優位性とし、年ごとに優位性の上位25%のエージェントのその年の応答をすべて集めた。そこからロールプレイの原則16項目に反する応答を除き、元のモデルがTulu 3の指示に答えた文と出力トークン数で1対1に混ぜて、忘却を防いだ1。

学習には3つの世界の最初の4年分の記録を使った。学習データには、エージェントの応答のほか、環境モデルの出力も含まれる。学習はH100を8枚載せたノード30台で1エポック行い、学習後のモデルを「Qwen3.5-397B-Agentopia」と名付けた1。

実験

世界の設定

実験では次の3つの世界を作り、それぞれに100体のエージェントを置いた1。

  • The Apartment: ニューヨークの共同住宅。若い勤め人・学生・芸術家が住む
  • Arcane Academy: 魔法の学園。学生と教員が学業と人間関係に向き合う
  • The Campus: 2020年の中国の高校。シミュレーションは中国語で行う

エージェントと環境モデルにはQwen3.5-397B-A17Bを使い、出力が壊れたときはGemini 3 Flashで作り直した1。

追加学習の結果

学習後のモデルと元のモデルで、The CampusとThe Apartmentを最初から4年分模擬し直して比べた。4年の平均は次のように変わった1。

指標元のモデル学習後のモデル増減
敬意を持たれた相手の数9.511.824.2%増
好意を持たれた相手の数6.98.015.9%増
経済の報酬107711042.5%増
主観的な満足の報酬49.950.81.8%増

一方で、物質の充足度は14.8%、単独で過ごした日数は19.8%、技能の上がった回数は29.6%減った。論文は物質の充足度の低下を、経済の報酬が消費より貯蓄を促したためと説明している1。経済の報酬は、3年目と4年目には元のモデルを下回った1。

ロールプレイの評価には、文学作品の場面を演じさせるCoSER Testの200問を使い、Qwen3-235B-A22Bが採点した1。CoSER Testは、王鑫涛らが2025年に発表した評価である6。4つの観点の平均点は次のとおりである1。

モデル平均点
Claude 4.5 Opus62.43
Gemini 3 Pro61.80
Qwen3.5-397B-Agentopia49.16
Claude 4.5 Sonnet45.21
Qwen3.5-397B(元のモデル)42.51
CoSER-70B35.95
GPT-5 Mini32.97

元のモデルから、人間らしさは23.7%、役への忠実さは16.4%、筋の一貫性は3.6%上がった1。

計算量

1つの世界で10年分を模擬すると、平均で137億トークン、56.7万回のLLMの呼び出し、実時間で約186時間を要した。入力が出力の約38倍あり、記憶が増えるにつれて1週あたりの実行時間は約80分から約140分に延びた1。

限界

論文は、人生の報酬が人間の幸福と一致する保証は無く、エージェントが受け取る反応はすべて他のAIのものであるため、学習したモデルが人間の認知や心理に合うかは未解決であると述べている1。計算資源の制約から、世界・エージェント数・期間を増やした実験や、他の系統のモデルでの学習は行っていない。報酬を応答ごとに振り分けず、選ばれた年の応答を丸ごと学習に使った点や、存在しない人物や場所を作り上げる幻覚が残っている点も、限界として挙げている1。

論文に載っている学習後のモデルの評価は、シミュレーション内の指標とCoSER Testの2種類である。シミュレーション内の比較は各世界で1回ずつで、結果のばらつきは示されていない。比較に使った世界と人物は、学習データを取った世界と同じである1。

歴史

論文は2026年6月5日にarXivで公開された。2026年11月2日時点で、arXivの版はv1である1。

量子位は2026年7月、Anuttaconが計算資源の約9割を大規模言語モデルに集め、そのチームをエージェントを中心とする研究に移したと報じた。同じ記事は、同じ時期の同社の論文として本研究を紹介した。論文の署名にAnuttaconの名は無いが、複数の著者の公開の経歴から同社での研究と分かるという。著者の陶云哲(Yunzhe Tao)はMicrosoft AIに、朱明浩(Minghao Zhu)は通義実験室に移ったとも伝えた4。論文の本文は、同社のゲーム『Whispers from the Star』を脚注で挙げている1。

ライセンス

GitHubのリポジトリはMITライセンスで公開されている。リポジトリには、シミュレーションを動かすスクリプト、優位性を計算して学習データを作るスクリプト、The ApartmentとThe Campusの世界のデータが含まれる。LLMは、vLLMなどのOpenAI互換のAPIと、AnthropicのClaudeをつなげる2。

外部リンク

出典

  1. Xintao Wang, Sirui Zheng, Hongqiu Wu ほか「Agentopia: Long-Term Life Simulation and Learning in Agent Societies」arXiv。2026年6月5日公開。2026年11月2日閲覧。 ↩ ↩2 ↩3 ↩4 ↩5 ↩6 ↩7 ↩8 ↩9 ↩10 ↩11 ↩12 ↩13 ↩14 ↩15 ↩16 ↩17 ↩18 ↩19 ↩20 ↩21 ↩22 ↩23 ↩24 ↩25 ↩26 ↩27 ↩28 ↩29 ↩30

  2. 「Neph0s/Agentopia」GitHub。2026年11月2日閲覧。 ↩ ↩2

  3. 論文に書かれた所属は、復旦大学が3人、ジョンズ・ホプキンス大学が1人、University of Science and Technology of Chinaが1人、Independent Researcher が8人である。 ↩

  4. 量子位「米哈游蔡浩宇AI创业生变」36氪、2026年7月31日。2026年11月2日閲覧。 ↩ ↩2

  5. 論文は、シミュレーション内の日・週・年を人の生活の周期に見合う抽象的な時間の層とし、暦の単位とは厳密に対応させないと述べている。 ↩

  6. Xintao Wang ほか「CoSER: Coordinating LLM-Based Persona Simulation of Established Roles」OpenReview。Forty-second International Conference on Machine Learning(2025年)。2026年11月2日閲覧。 ↩

最終更新